黄昏みらーじゅ: 放射線でハゲができた

10年ほど前のことの話だが、私は、ひどいうつ状態と頭痛で有名な大病院で検査を受けた。うつ状態がひどいので、うつ病だろうということで検査を受けた。MRI検査で、
「視神経に絡んで、脳に何かがあるようですね」
と軽くいうもので、どう反応していいか分からなくなった。

検査したらどうも腫瘍らしい。
そこで現れたのが「カリスマ脳外科医」である。全国のカリスマ医師のリストに名前も載っているらしい強者だ。ふっふっこの人がいるのなら心配ないぜ。
「まあ、この位置の腫瘍は、良性ですから心配ないですよ。」
とカリスマが軽～く言ったが、結局手術となった。

手術が終わったら、
「良性だと思ってたんだけど、実は悪性腫瘍だったよ。」
とか軽～く言ってきた。あんた「カリスマ脳外科医」じゃなかったのか。
だいたい、悪性腫瘍ってがんじゃないか。
「リンパ腫です」
リンパ腫って悪性しかないんだって。しかも転移力抜群の凶悪な奴じゃないか。
「ちゃんと手術で摘出しましたから大丈夫ですよ」
今までにその言葉に騙されて、何人三途の川の向こうへ旅立ったことか？
というわけで、放射線治療をしとこうねとなった。

放射線治療というのは、細胞を破壊する量の放射線を患部に当てて、いいものもわるいものも一網打尽にしてしまう乱暴な治療法である。しかも、細胞を破壊するぐらいだから、当然致死量以上のものを一点に集中する。いい細胞はまた再生するが、がん細胞は再生しないらしい。
私の場合は眼球から患部を通って脳を貫通して後頭部へ抜ける、一見して危険そうなルートである。危険はありませんと医者は言うが、危険なのだよ。

放射線治療中のある日、私は右の眉が半分になっていることに気が付いた。どうも放射線でやられたらしい。とりあえずニット帽を目深にかぶっておくことにした。この時は、一生このままだったらどうしようと、対処法を考えていた。対処法は考えられなかった。
しかも眼球を放射線が通ったもので、左目の調子がおかしい。
「白内障ですね。よくあるんですよ。眼科に行って下さいね」
こらこらこら。お前らのせいだろうが。眉が半分になった上に、左目が白内障かよ。

これは大変だと後頭部を押えると、なんか５００円玉ほどの「つるん」とする場所が･･･。
「なんだ？これは？」
指でつるんとしたところを触っていると、だんだん状況が分かってきた。
「これは、ハゲ？」
放射線が脳を貫通した後、後頭部に決定的なダメージを与えたのだ。妻は、
「実は前から気づいてたんだけど、気にするといけないから黙ってた」
とのこと。どうも結構早くからハゲていたらしい。
「大丈夫よ。放射線のせいでハゲただけだから、その内生えてくるよ」
「おいおい、何の根拠があるんだよ」
「よく分からないから、黒いマジックで塗っとけばいいよ」
この前まで危うく死にかかっていたのに、ひどい仕打ちである。
しかし、脳内の放射線貫通部はどうなっているのか恐ろしい。

今は眉も後頭部も毛が生えてきてほっとしているが、なんだか、左の眉の位置が変わったような気がする、今日この頃である。

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